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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)561号 決定

再抗告人 遠藤馨

主文

本件再抗告を棄却する。

再抗告費用は再抗告人の負担とする。

理由

本件再抗告の趣旨は原決定を取り消し更に相当の裁判を求めるというのであり、その理由は末尾添付別紙に引用して記載したとおりである。その論旨は必ずしも明らかではないが原審が本案訴訟の和解成立の結果取下により完結した仮処分事件の訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九七条を準用し各自負担の黙示の合意を認定しその合意に従つて負担を命じたことをもつて法令適用の誤りをおかしたものと主張する趣旨と解せられる。

訴の取下により任意に訴訟が終了した場合には取下げた当事者を敗訴当事者に準じて訴訟費用の負担者とするのが一般原則であることには異論はないけれども、だからといつて常に取下げた当事者に全額負担を強いるべきでもないことは、民事訴訟法の訴訟費用の負担法則が任意規定と解されること、及び同法第一〇四条第二項が同法第八九条以下を準用していることから明らかである。もつともみぎ同法第一〇四条第二項は同法第九七条を準用していないから、その反対解釈からその準用を言明する原決定は誤りであるという解釈の余地がないではない。しかしながら、前記のとおり訴訟費用の負担法則は任意規定と解されるのであるから、同法第九七条は当事者が別段の定めをしなかつた場合におけるその意思表示の補充規定の性質をもつにすぎないのであつて、同法第一〇四条第二項が同法第九七条を準用していないからといつて、当事者間の訴訟費用の負担についての意思表示の解釈ができないというわけのものでもない。そして、原決定は、本件仮処分事件が本案訴訟の和解成立の結果取下げられたこと、みぎ本案訴訟の和解条項には、訴訟費用は各自負担とする旨の定めがあつたこと、本件仮処分事件については、その訴訟費用の負担に関し、当事者間に明示の合意がなかつたことを各認定し、右事実から、本件仮処分事件についても本案訴訟の訴訟費用の負担の合意と同じく各自負担とする旨の黙示の合意が存在したことを認定し、その合意に従つて各自負担と命じたものでありその推論の過程に違法はない。もつとも原決定は右推論の理由づけとして同法第九七条の準用に言及するので、果して本案訴訟の訴訟費用の負担の明示の合意から、仮処分事件の訴訟費用の負担の黙示の合意を推認したというのか、或いはまた仮処分事件自体につき和解が成立したが訴訟費用の負担につき別段の定めがない場合に準じて同法第九七条所定の各自負担を命じたというのか必ずしも明らかではない。そのいずれであるかは、かりに本案訴訟の訴訟費用の負担の明示の合意が各自負担以外の場合であつたとすれば結論に影響を及ぼすことは明らかではあるが、そうでない本件においては結論は同一であり、いずれの説明も可能というほかない。従つて、かりに訴の取下の場合に民事訴訟法第九七条を準用すべきでないと解しても、その解釈の誤りは原決定の結論に影響を及ぼさないといわねばならない。

してみれば、本件仮処分事件の訴訟費用の各自負担を命じ、本件訴訟費用額確定決定申立を却下した原決定は正当であつて本件再抗告の申立ては理由がないから、これを棄却すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 稲田輝明)

抗告の理由

一、本案と異議申立事件は明らかに、別事件である理由により、本案の和解が異議申立事件の和解とする理由はない。

二、原決定の如く和解が任意事項を含むものとしても異議事件の第一審である東京簡易裁判所昭和四一年(サ)第一五〇八号事件を和解したものとする理由がない。

関連するのは、本案と保全事件である。

三、原審の本旨である任意事項については、本件の場合、本案が東京簡易裁判所昭和四一年(ハ)第八三八号であつて、昭和四二年二月四日和解になつているが、和解条項にもある通り、他に昭和四一年(行ウ)第一二七号事件もある故、敢えて事件を両立させずとも本件は、保留か和解にしてはとの見解が裁判長よりあり、和解に至つたもので何ら異議事件を和解すると言う意志はなかつたのである。

本案と異議の一本化ではなかつた。

この事状は、東京簡易裁判所昭和四二年(サ)第三七九号申立書の通りである。(第一審)

四、論理としても仮処分の決定により仮処分申立人は、目的が達成され異議申立なされても効力が存続する。

一方、本案が同類事件に肩代りするとの条件で和解されていることは、本質的には本案も係属しており仮処分をも、相手方は争つている事実になる。すると異議事件を取消す理由は相手にはない。

現に、双方争つているのである。してみると任意に他の事件までも和解する意志があつたとは考えられない。

しかも、本案事件と異議事件は別な部に係属しており、一方の事件の和解が他の事件の和解とする理由はない。

和解条項にもない事項が理由ありとするのは法解釈の誤りである。

仮りに、片方に、意志表示の誤りがあつたとみるにしても、仮執行が、ありながら、その被害の補償を考えずに、他方が和解したとするには、余りにも、真実の和解の意志がない。和解条項にもある通り、この和解は、本案を本案と同類事件に代用する約束に過ぎない。

和解条項の一などは、仮処分を説明した文であり、無意味である。

条文全体としても、事件を争いながら、他方で和解すると言う本質では空文に近いものである。

五、右の理由により、法解釈の誤りである故、本件抗告致します。

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